東京地方裁判所 昭和33年(レ)596号 判決
主文
原判決を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。
事実
控訴人訴訟代理人は、主文と同じ判決を求め、被控訴人訴訟代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
被控訴人訴訟代理人は、
請求の原因として、
被控訴人は、次の約束手形一通の所持人である。
金額 六万円
満期 昭和三十三年三月二十日
支払地、振出地ともに埼玉県川口市
支払場所 川口信用金庫
振出日 昭和三十二年十一月十五日
振出人 有限会社矢田鋳工所
あて名人兼第一裏書人 控訴人(拒絶証書作成の義務を免除している。)
被控訴人は、右手形を東京都商工信用金庫小山支店に取立のため裏書譲渡し、右金庫において満期に支払場所に呈示したが、支払を拒絶されたので、その返還をうけたものである。
よつて、被控訴人は、裏書人である控訴人に対し、右手形金六万円とこれに対する本件訴状が控訴人に送達された日の翌日である昭和三十三年七月九日から支払済に至るまでの商事利率年六分の割合による遅延損害金との支払を求める。
と述べ、
控訴人の主張に対し、
被控訴人が、本件手形を割引くことにより、高橋義次からその交付をうけたことは認めるが、被控訴人が高橋から手形金相当額の返済をうけたことは否認する。
と述べ、
証拠として、甲第一号証を提出し、当審における証人高橋義次の証言(第二回)と被控訴人本人尋問の結果とを援用し、「一、乙第一号証のうち、官署作成名義部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は知らない。乙第二号証の成立は知らない。」と述べた。
控訴人訴訟代理人は、
被控訴人の主張する請求原因事実は認める。
と述べ、
主張として、
控訴人は、昭和三十三年一月六日ごろ、作田力三を通して関根勝治に本件手形の割引を依頼した。高橋義次は、関根に対する貸金十万円の請求をしているうち、関根が本件手形を所持していることを知り、これを騙取して右債権の弁済にあてようと考え、同月中旬ごろ、代理人川上水生をして関根に対し、右貸金とは別に本件手形を割引いてやると申しむけ、同人を欺罔して、これを騙取した。
被控訴人は、高橋の依頼により、本件手形(控訴人裏書の被裏書人部分が白地になつているものの)割引をし、高橋から本件手形の交付をうけたものであるが、本件手形金の支払を拒絶された後、高橋から手形金相当額の返済をうけたものである。
したがつて、被控訴人の本件手形金請求権は消滅したのであるが、被控訴人は、控訴人から前記騙取の事実を主張される高橋の依頼をうけ、本訴請求をしているものである。
と述べ、
証拠として、乙第一、二号証を提出し、当審における証人関根勝治、同高橋義次(第一回)の各証言と控訴人本人尋問の結果とを援用し、「甲第一号証の振出面よび控訴人作成名義の裏書欄(ただし、被裏書人として表示されている「山中松五郎」の部分を除く)の各成立は認める。」と述べた。
理由
被控訴人が主張する請求原因事実は、当事者間に争いがない
そこで、控訴人の主張について判断する。
被控訴人が本件手形を所持するようになつたのは、高橋義次から依頼されて、本件手形の割引をし、高橋から本件手形の交付をうけたことによるものであることは、当事者間に争いがない。
証人関根勝治の証言と控訴人本人尋問の結果とによれば、高橋は、自分が割引をうけた関係から、本件手形金の支払が拒絶された後直ちに、被控訴人に対し手形金相当額を弁償したことを認めることができる。証人高橋義次の証言(第一、二回)、被控訴人本人の供述のうち、この認定に反する部分は信用することができない。
右の事実によれば、被控訴人は、本件手形を取得するために支払つた対価を利得を加えて回収しているものである。このような場合には、被控訴人は、本件手形の所持人として、手形金の支払を求める権利がないものと解する。
被控訴人が、本件手形の所持人であり、振出人、裏書人らの手形債務者から手形金債務の履行をうけていないことは明らかである。しかしながら、被控訴人は、前記のように、対価の回収をしたことにより、被控訴人が本件手形を取得した目的--本件手形の満期に手形金を支払つて貰うことにより、自分が支出した割引金額に割引料を加算したものを取得し、手形割引によつて金融を与えた利得をうること--を達しているのである。それだけでなく、高橋に対し、本件手形を同人に返還する債務を負うに至つたものである。このような場合には、手形を持つているということがあつたとしても、手形金の支払いを請求する権利は、既に所持人にはないと解するのが、最も手形関係者(手形面に表示されていないものも含めて)の間の衡平をはかるものであるということができるからである。手形行為の無因性ということも、手形譲受人の権利を確保して手形の流通性の円滑化を図ることにあるのであるから、すでに手形の所持人が手形金額の弁償をうけて手形取得の目的を達した本件のような場合にまでおよぶとは考えられないし、また、償還義務者からその義務の履行をうけたものとは、手形を返還しなかつたとしても、手形債権が客観的に消滅してしまい、手形所持人として右義務履行者の前者に対しても手形金請求権を行使することができなくなるものと解することができることからしても、前記のように解することが妥当であると考える。
被控訴人が、本件手形の実質的権利者である高橋から、権利の譲渡をうけ、あるいは権利行使の委任をうけているということは、被控訴人において主張しない。
そうすると、被控訴人の請求は、権利がないものとして失当である。
よつて、民事訴訟法第三百八十六条により被控訴人の請求を認容した原判決を取消し、被控訴人の請求を棄却し、訴訟費用の負担について同法第九十六条、第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 西山要 西沢潔 関ロ享)